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東京地方裁判所 平成9年(ワ)14302号 判決 1998年8月27日

原告

東急工建株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

弘中徹

三好重臣

早坂亨

被告

住宅サービス株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

圓山潔

主文

一  被告は、原告に対し、金一億一八八二万五五〇〇円及びこれに対する平成七年一二月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、マンションの販売委託契約における委託者である原告が、受託者である被告に対し、同契約における買取保証特約の債務不履行に基づく損害賠償として、買取保証額と転売価格との差額金一億一八八二万五五〇〇円及びこれに対する転売日の翌日である平成七年一二月二六日から支払済みまで商事法定利率六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、建設業を営む会社であり、被告は、土地建物の売買、仲介、斡旋等を主な目的とする会社である(争いがない)。

2  原告は、もともと被告が訴外三友建設株式会社から売却の仲介の依頼を受けていた土地を、同土地上にマンション一棟を建築したうえ、区分所有部分である各住戸を売却するということになり、原告が同会社から同土地を購入し、マンション一棟を建築した(争いがない)。

3  原告は、平成六年七月七日、被告との間で、右マンションの各住戸である別紙物件目録≪省略≫記載(一)ないし(一九)の各マンション(以下「本件各マンション」という)の販売に関して、以下の内容の不動産販売委託契約を締結した(争いがない)。

(一) 委託期間 平成六年七月七日から平成七年三月三一日とする。

(二) 販売価格 平均占有坪単価金二四五万円とする。

(三) 報酬 原告は、被告に対して、販売手数料として、本件各マンションの各販売代金(消費税を除く)の六パーセント相当額に金一二万円を加算した額を支払う。

(四) 買取保証 本件各マンションのうち、平成七年三月三一日の時点で売れ残ったマンションがあった場合、被告は、右マンションを、別紙販売価格表の本件価格欄記載の価格の八一パーセントに相当する額(以下「買取保証額」という)をもって同年七月三一日に買い受ける。

4  被告は、平成六年七月九日から、本件各マンションの販売を開始したが、首都圏のマンションの売値が下降気味であったため、販売に至らなかったので、原告と被告は、平成七年七月三一日ころ、右委託期間を平成七年一〇月三一日まで延長することに合意した(争いがない)。

5  被告が平成七年一〇月二日、原告に対して、再度、前記委託期間を六か月間延長することを求めたが、原告は、右求めに応じなかった(争いがない)。

6  平成七年一〇月三一日が経過するも、同日までに販売できたのは、別紙物件目録記載(一六)のマンション(以下「七〇一号室」という)だけであった(争いがない)。

7  原告は、平成七年一一月二二日、被告に対して、七〇一号室を除く本件各マンションの買取保証額合計金五億九六二八万一五〇〇円を一週間以内に支払うように催告するとともに、右期限内に右金員の支払いがない場合、本件売買契約を解除する旨意思表示した(争いがない)。

8  原告は、平成七年一二月二五日、訴外菱和ハウス株式会社に対し、七〇一号室を除いた本件各マンションを代金四億七七四五万六〇〇〇円(消費税別)で売却した(≪証拠省略≫)。

二  争点

原告の本訴請求は、信義則に反し、権利の濫用であるか。この点、被告は、本件各マンションの販売についてその時点における不動産市況等を考慮して本件各マンションの販売価格、販売方法について修正を申し出たにもかかわらず、原告は、これに協力しなかったものであり、かかる原告の態度は信義則に反し、原告の本訴請求は権利の濫用であると主張する。

第三争点に対する判断

一  ≪証拠省略≫、弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

1  被告は、平成七年一月、原告に対して、売値と公的融資額との差額を原告のクレジットを使用させるといういわゆる自社クレジット方式(割賦販売)などの販売促進のための手段を提案したが、原告は、これに応じなかった。

2  本件マンションのうちの二戸分の購入希望者が現れたが、同人は、二戸を一戸に変更する工事について、工事費分で代金より金二〇〇万円の値引きを申し出てきたため、原告にその旨取り次いだが、原告は、これについて承諾しなかった。

3  被告は、平成七年四月、原告に対して、売却額を買取保証額を限度として減額すること、すなわち、当初の販売価格の一九パーセントを減額することを求めたが、その際の被告の報酬について合意に至らなかった。

4  被告は、そのころ、原告に対して、坪単価を金一九八万円以上としたうえで一括売却することを提案したが、原告は、これに返答しなかった。

二  他方、≪証拠省略≫、証人Cの証言、弁論の全趣旨によれば、①原告が自社クレジット方式による販売の提案に応じなかった理由は、貸金業法との関係から定款変更の必要があったこと及びそのことによる企業イメージの悪化等を考慮したためであったこと、②本件各マンションのうちの二戸分の購入希望者は、二戸を学習塾及び司法書士事務所として利用するため二戸の間の壁にドアを設置して一戸に変更することを希望していたところ、住宅金融公庫から融資を前提として総戸数を既に届け出てあったため右工事に応ずることはできなかったが、テラス部分を利用しての往来ができるようにすることには応じる意思があり、その旨伝えたが、同人は、購入代金について金融機関から融資を受ける予定であったにもかかわらず、同人から融資手続に必要な年収証明の提出がなされなかったため融資審査ができず、結局、販売にいたらなかったこと、③原告は、販売価格を買取保証額まで減額することについては承諾したものの、本件各マンションの原価が買取保証額、すなわち、販売予定額の八一パーセントに相当する額であったことから、被告への手数料については、被告の求めどおりに値引後の売却額の六パーセント相当額に金一二万円を加算した額を支払うことについては応じることはできず、合意するには至らなかったこと、④被告の一括売却の提案は、売却先等の具体的説明が一切なかったこと、⑤原告自身も販売依頼の可能なところを全てリストアップして販売できるように努力したこと、の各事実が認められる。

三  右一及び二に認定した各事実のほか、前記第二、一、4のとおり、原告は、被告からの委託期間の延長の求めに一度は応じたことをも総合考慮すると、前記一に認定した原告の態度が信義則に反し、原告の本訴請求が権利の濫用であるとは言えない。

(裁判官 片山憲一)

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